スペシャルティコーヒーカフェ

グリッチコーヒー|日本式ハンドドリップの美学を神保町から世界へ

東京・神保町の喧騒にそっと溶け込むように佇む、「グリッチコーヒー」。ここでは、時間と対話するように淹れられる一杯が“ただのコーヒー”を超える瞬間に立ち会える。代表・鈴木清和のキャリア、哲学、ビジョンをたどりながら、日本発のスペシャルティコーヒー文化の真髄に迫る。

神保町から始まった一杯の物語

© 食べログ

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「GLITCH COFFEE & ROASTERS」の第一号店が生まれたのは、喫茶と古書が交差する神保町。大量生産とは距離を置き、農園単位の“シングルオリジン”に特化し、豆本来が持つ風味と個性にこだわる姿勢を突き詰めた場所だ。

店内に敷き詰められた玉石の壁や、ロゴに使われた家紋など、随所に日本らしさを感じることができる装飾も訪れる人の目を引く。地域に根づく文化と、グローバルな感覚を重ね合わせることで、独自の存在感を放っている。

この店のコーヒーには、生産者との対話やロースターの審美眼、一つひとつが緻密に織り込まれている。「日本らしいコーヒー体験」とは何かを、グリッチは問い続けている。

鈴木清和──バリスタの枠を超えた職人主義

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鈴木清和がバリスタという職業に出会ったのは、自作陶器に淹れた一杯のコーヒーがきっかけだった。かつては情報系企業のサラリーマン。だが器作りやアクセサリー制作を通じて“何かを生み出す”悦びに目覚め、やがてその先にあったのがコーヒーだった。

「自分の手仕事が、誰かを笑顔にできた」。その気づきは、職人への道を決定づけた。

ポール・バセットの薫陶と10年の修行

© BeanScene

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世界を知ることから始まった

日本ではまだ珍しかった本格的な抽出理論。オーストラリアのバリスタ世界王者・ポール・バセットと共に働いた10年間は、まさにカルチャーショックの連続だった。

最初の数日は「次元が違う」と打ちのめされたものの、日本国内の品質管理やアジア各国への展開にも関わる中で、鈴木自身のバリスタとしての精度も静かに上がっていった。

その後チーフバリスタ兼ヘッドロースターとして、国内外の出店や商品管理に深く携わることに。「辞めるに辞められない日々」の中で、日本独自の文化に向き合う視点が少しずつ芽生えていく。

シングルオリジンとブラックに込める信念

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「ブレンドやミルクは、個性を覆い隠してしまう」。鈴木がこだわるのは、豆の個性をそのまま伝えるブラックコーヒー。特に【シングルオリジン】──一つの農園から収穫された豆のみを使用する方法──が持つ明確な輪郭が魅力だ。

これは、素材そのものへのリスペクトであり、ロースターとしての矜持でもある。

また、ときにグリッチでは1杯3500円程度の希少なロットを提供することもある。異常とも言える価格設定に、“その価値がわかる人”が世界中から訪れる。彼らが「クレイジー」と言いながらも、その一杯に唸ることが、答えのないコーヒーにひと筋の正解を浮かび上がらせている。

ハンドドリップは、現代の“茶の湯”かもしれない

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所作が語る、日本独自のスタイル

海外から訪れる人々の多くが「日本人のハンドドリップには美しさがある」と言う。その所作はまるで、玉露や煎茶を丁寧に点てるよう。

手間暇をかけて、一杯を仕上げる姿勢。それが、「速さ」と「効率」が重視されがちな現代にあって、日本文化の根底にある“もてなし”や“丁寧さ”を体現している。

実際に鈴木は、ブルーボトルなどが注目したように、「ハンドドリップこそが日本独自のカルチャー」であるという誇りのもと、国内外のバリスタにもその魅力を伝えてきた。

日本のコーヒーカルチャーの立ち位置

まだまだ“渋い”や“男性的”というイメージが根強いコーヒーだが、グリッチはその空気を変えていきたいと考えている。若い女性が、自宅でハンドドリップを楽しむ未来も、すぐそこに来ているかもしれない。

また、日本人自身が「日本のコーヒー文化を誇る感覚」に欠けていることを、鈴木は常に課題として感じている。ハンドドリップや喫茶店という独自の文化にもっと自信を持ってほしいという思いも、グリッチの根底に流れる。

データと偶然を往復する“グリッチ”の哲学

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グリッチという店名には、「バグ」や「偶発的なひらめき」という意味が込められている。科学的なデータと経験則、そして偶然によって生まれる発見。グリッチではロットごとに焙煎プロファイルを構築しつつも、固定された“正解”にはとらわれない。

新たに入ったスタッフにも、最初に必ずハンドドリップをさせるという教育方針も、こうした姿勢の表れだ。鈴木曰く「90%は改善すべき点が見えるが、残りの10%が予測不能な面白さを生む」。

グリッチコーヒー基本情報

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  • 住所:東京都千代田区神田錦町3-16 香村ビル1F
  • 営業時間:平日8:00~19:00 休日9:00~19:00
  • 定休日:なし
  • 公式サイト:https://glitchcoffee.com

公式サイトではシングルオリジン豆や抽出器具の通販も可能だ。初心者向けのセットや、定番のアイテムも充実している。

また、グリッチコーヒーは現在、以下の都市で展開されている。

  • 神保町本店(東京都千代田区神田錦町3-16 香村ビル1F)
  • 銀座店(東京都中央区銀座1丁目)
  • 名古屋店(愛知県名古屋市中村区名駅2-42-2)
  • 大阪店(大阪府大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルタワー・ウエスト1階)

こだわり派が愛する抽出器具ブランド「ORIGAMI」とは?


グリッチでも採用される「ORIGAMI」は、日本製の抽出器具としてコーヒー愛好家の間で注目されているブランド。

カラーや形状の豊富さだけでなく、機能面でも優れており、プロのバリスタから家庭用まで幅広く愛用される。特に、ドリッパーやサーバーはその洗練されたデザインと高い抽出性能から人気を博している。

心に残る一杯を求めて

「大量生産はできなくても、記憶に残る一杯なら作れる」。それが、グリッチコーヒーの哲学だ。日本のカルチャーが育んだ精緻なスタイルと、世界基準の味わい。その両方を支える目に見えない“技”と“想い”が、グリッチの抽出器具からも、一杯の香りからも、そっと伝わってくる。

余白に宿る、美しきコーヒーの可能性

グリッチコーヒーは、単なるスペシャルティコーヒーショップではない。一杯を通して、手のぬくもり、作り手の哲学、そして土地や文化の声を感じられる場だ。この感度の高い体験は、きっと飲むたびに、心のどこかをほどいてくれる。時間を味わいたいすべての人へ、世界で唯一無二の一杯を。

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