ワイン

Y by YOSHIKIが日本ワインへ。北海道・余市の風土から、新たな“ワインのアート”が生まれる

それは、一本のスコアに音符が載るように、静けさのなかに情熱が宿る瞬間だった。YOSHIKIが満を持して挑む“日本ワイン”という新たな舞台で、ナパの陽光とは異なる冷涼な大地——北海道・余市。その手に鍬を持ち、葡萄に祈る姿が静かに物語りはじめている。音楽とワイン、その接点の先に何が生まれるのか。今、その第一歩が刻まれた。

ついに始動、「Y by YOSHIKI」日本発プロジェクト


「Y by YOSHIKI」と言えば、ロブ・モンダヴィJr.との共作でカリフォルニアワイン界に名を刻んだブランド。発売のたびに即完売し、“幻のワイン”として語られる存在だ。そんなラグジュアリーなブランドが、ついに日本産ワインへと舵を切った。

舞台は北海道・余市。YOSHIKI自身が鍬をふるい、葡萄の苗に願いをこめた。その眼差しには、畑の地中深くから新しい物語を汲み上げるような覚悟があった。

パートナーは“日本一入手困難な男”


今回の醸造パートナーは、「ドメーヌ・タカヒコ」の曽我貴彦氏。彼が手がけるピノ・ノワールは、北欧の星「noma」のワインリストにも最初に名を連ねた国産ワインとして知られる。

自然酵母・無清澄というアプローチを貫き、余市の土壌と気候の声をワインに落とし込むその哲学は、YOSHIKIが語る「ワインは芸術だ」という信念と響き合う。

北海道・余市で描く、繊細なるピノ・ノワールの理想郷――ドメーヌ・タカヒコ


北海道余市町登(のぼり)地区。この冷涼でミネラル豊かな地に、唯一無二の日本ワインを生み出すドメーヌ・タカヒコがある。創設者であり醸造家の曽我貴彦氏は、長野・小布施ワイナリーの次男として生まれ、東京で醸造学と微生物学を学んだ後、栃木・ココファームで10年にわたり農場長を務めた経歴をもつ。

その間、世界中のワイン産地を巡る中でジュラ地方オベルノワのワインに強い衝撃を受け、「日本であのニュアンスを表現するならピノ・ノワールしかない」と確信。2010年、4.6haの土地を余市で取得し、13系統のピノ・ノワールをすべてビオロジックで栽培しながら、自らの理想を追い求め続けている。

ドメーヌ・タカヒコのワインは、野生酵母・全房発酵・無補糖・無補酸・非加熱が基本方針。2015年以降は赤ワインに亜硫酸を一切添加せず、果皮や茎、土壌、微生物のエネルギーがそのままボトルに詰め込まれている。色調は淡くとも、香りと余韻には深みと透明感があり、滋味に富んだその味わいは「出汁」に喩えられるほど。

農業こそがワイン造りの原点であるという信念のもと、曽我氏は「農夫でなければ造れないワイン」を目指している。国内外で圧倒的な人気を誇る理由は、そのフィロソフィーと手間暇を惜しまない徹底した造りにある。

ドメーヌタカヒコ公式サイト
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「フィールドオブドリームスワイナリー」の地盤から


この挑戦を支えるもう1つの軸が、井内由佳氏の率いる「フィールドオブドリームスワイナリー」。設立から間もないものの、余市・登町の火山性土壌と持続可能な農業を活かしたワイン造りで注目を集める。

特にピノ・ノワールとシャルドネにフォーカスし、冷涼な気候が酸味と繊細さをもたらす。そのポテンシャルは世界基準と肩を並べるレベルにあるとされる。公式サイトはこちら

余市というテロワールの可能性

© ドメーヌタカヒコ

© ドメーヌタカヒコ


北海道・余市は今や、国内外が注視する次世代ワインの聖地。昼夜の寒暖差、火山性土壌、水はけのよさ——これらはピノ・ノワールにとって理想郷とも言える。

この地から生まれるワインは、果実味の強さよりも、複雑で透明感のある旨みを特徴とし、既に国際的なバイヤーやレストランから評価を得ている。YOSHIKIの感性と、余市のテロワールが交差することで何が立ち上がるのか——その“余白”こそが魅力だ。

芸術家YOSHIKIが仕掛ける「地方創生としてのワイン」


単なるワイン・プロジェクトに留まらないのが、この挑戦の奥行き。YOSHIKIは「ワインを通して日本経済にも貢献できれば」と語り、地方創生や少子高齢化といった社会的テーマにも触れている。

彼のルーツは日本、視線は世界。ミラノコレクションやTIME誌「世界で最も影響力のある100人」選出など、その活動の広がりを考えると、ワインもまた“表現”であり“波及”の一形態なのだ。

これまでとこれからの「Y by YOSHIKI」


2009年にナパ・ヴァレーで産声を上げた「Y by YOSHIKI」。15年かけて6シリーズをリリースし、そのすべてが完売を繰り返してきた。2023年にはシャンパーニュの名門「POMMERY」との史上初共同ブランドも実現、限定シャンパーニュは各国で即完。

2024年にはRoséもリリースされ、“ロゼ市場に革命”と評された。そんなブランドが今、「日本の土から醸す」ことで新たな次章を刻み始めた。

満を持してスタートしたYOSHIKIの挑戦に舌も心も踊る


音楽とワインという異なる舞台を静かにつなぐYOSHIKIという存在。彼が余市の大地で蒔いたのは、葡萄だけでなく、未来への問いかけでもある。感性をほどく準備はできているか。日本発のワインアートが、あなたの五感にしみわたるその瞬間を、待っている。

この記事を書いた人

J.S.A Wine Expert / Sake Diploma。酒の香りにとことん弱い。都市とローカルを往復しながら、その土地の一杯に耳をすませている。これまでに開催したワイン会・日本酒会では、のべ5000人以上に酒を注いできた。抹茶の世界にも、静かに足を踏み入れはじめたところ。飲んだ先に広がる世界を求めて、今日も一杯、のち一文。

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