表参道の奥まった路地。黒塗りの門をくぐった瞬間、都市のざわめきがふっと遠ざかる。そこに現れるのは、小さな豆専門店「KOFFEE MAMEYA」。看板も最小限、無機質で静謐な佇まい。しかし一歩踏み入れれば、ここは 「コーヒーを飲む場所」ではなく、「コーヒーと出会う場所」 だと気づかされる。

KOFFEE MAMEYAが提供するのは、一杯のドリンクではなく “味覚のカウンセリング”。白衣をまとったバリスタは、来店者の言葉を拾い、記憶を掘り起こし、まだ見たことのない一杯へ導く“案内人”のような存在だ。
KOFFEE MAMEYAとは何か──唯一無二の豆専門店

© JDN
カフェではなく「豆屋」という選択
KOFFEE MAMEYAは、エスプレッソマシンが目を引くにもかかわらず、その本質はあくまで“豆”。
世界中のロースターから集められた約20種の豆が常時並び、その多くは MAMEYA専用焙煎の特注品。ここにしかない一杯との邂逅が、この店の価値を形づくっている。
“焙煎しないバリスタ”という哲学
創設者・三木隆真、そして現在の要であるディレクター國友栄一が語るのは「敬意と分業」。
バリスタが焙煎士を兼ねる流れに疑問を持ち、焙煎は専門家へ、抽出はバリスタへ。
その結果、ロースターごとの個性を最大限引き出す「媒介者」としての役割が確立した。
表参道の路地裏に潜む意図
“わざわざ探しに行く”ことそのものが、ここでの体験価値を形づくる。
コーヒーは日常の飲み物だが、訪れる行為が特別な儀式になる。都会の喧騒から距離を置き、自分だけの一杯と向き合う時間をつくるための場なのだ。
豆が語る物語──ロースターの世界とラインナップ

© Tine Out Tokyo
刺激的なロースターリスト
提供される豆は、多彩な感性を持つロースターから集められる。
- 小川珈琲
- 豆香洞
- Unlimited Coffee
- Switzerland MAME
- Ditta Artigianale(イタリア)
など、浅煎りから超深煎りまでの表現が揃う。
焙煎士と対話しながら、MAMEYAのためだけに最適化された焙煎オーダーが組まれていく。
定番&季節ブレンドの妙
- ブレンド NO.1(エスプレッソ仕様)
- ブレンド NO.2(コールドブリュー向け)
用途に合わせて設計されたブレンドは、液体で何度も試作され、プレミックス/アフターミックスを使い分けながら“理想の一杯”を探る。
シングルオリジンは“旅する味覚”

ゲイシャ、パナマ、コスタリカなど、旬のロットを世界中から集める。
たとえばLeaves焙煎の「San Ishidoro Geisha」は、ジャスミンの香りがふわりと消え、後からフルーツの余韻が追いかけてくる逸杯。
現地に行かなくても、産地の風景と季節がそのまま味わえる。
“選ぶ”体験のアップデート──KOFFEE MAMEYAのサービス

© &Kalita
味を可視化する「味のマトリクス」
KOFFEE MAMEYAでは、焙煎度とコクを5×5のマトリクスで分類。
色の濃淡で味の世界観が理解しやすく、自分の未体験領域がひと目でわかる。

© &Kalita
迷ったら白衣のバリスタがそっと処方してくれる「コーヒーのレシピ」を頼りに、冒険すればいい。
目の前で淹れるハンドドリップとレシピ公開

抽出はすべてカウンター越しでハンドドリップ。
湯温、挽き目、抽出時間──あらゆる変数を丁寧に調整し、一杯がライブ的に立ち上がっていく。
レシピは惜しみなく共有されるため、自宅での再現性も高い。

有料テイスティングの愉しみ
迷ったら、まず一杯350円〜のテイスティングを。
試験管に入れられた豆のストックから好きな豆を選び、その場で抽出してもらえる。
時間と国境を越えて世界の味が並ぶ“試飲の旅”は、この店ならでは。
バリスタとの対話という体験価値

ここでは“会話”もメニューの一つ。
豆の生産地、ロースターの背景、抽出技術──その場で生まれる対話が、新しいコーヒー観を開いてくれる。
器具にも宿る美学──Made in TSUBAMEのKalita
MAMEYAが愛用するのは燕三条製の Kalita ウェーブドリッパー。
素材に左右されず、どの豆にも対応できる器具として、バリスタの抽出意図をそのまま反映する。
精巧な金属加工が生む安定した抽出スピードは、味わいを正確に再現するための“静かな名脇役”だ。
店舗情報:迷う価値がある場所

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- 所在地:東京都渋谷区神宮前4-15-3
- 営業時間:10:00〜18:00
- 定休日:不定休
- 公式サイト:http://www.koffee-mameya.com/
休日は10〜20名規模の行列がデフォルト。
ただし、待ち時間さえも“期待の香り”として体験の一部になる。
まとめ──コーヒーの未来に触れる場所

KOFFEE MAMEYAは、サードウェーブ以降のコーヒーカルチャーをさらに更新し、選ぶ楽しさを深化させた存在だ。
迷い、選び、語り、驚く。
白衣のバリスタがそっと背中を押してくれるその瞬間、コーヒーは単なる飲み物から「新しい自分と出会う装置」へと変わる。
まずは表参道の路地裏へ歩いてみよう。
その黒塗りの門の先で、あなたのコーヒーの風景は確かに変わるはずだ。



