日本酒

羽根屋 DIAMOND 雄町8%:凍眠で蘇る”生酒の理想”

2025年、世界最大級の酒類コンペティションIWCで、富山の富美菊酒造が手がけた「羽根屋 DIAMOND 雄町8% 無濾過生原酒」が純米大吟醸部門でゴールドを受賞した。液体冷凍技術「凍眠」によって生酒の課題を克服し、世界に”日本酒の未来像”を提示した革新的な挑戦の全貌を掘り下げていく。

世界が評価した精米8%の奇跡


1,476銘柄の中からゴールドを獲得したのはわずか52本。その中に選ばれたのが、「羽根屋 DIAMOND 雄町8% 無濾過生原酒」だ。精米歩合8%という驚異的な数字は、業界関係者からも「クレイジー」と賞賛された。

この酒は、一般的には高精白に不向きとされる酒米「雄町」を、8%まで丁寧に磨き上げたもの。その結果、テイスティングでは「洋梨、白い花、タマリンドの香り、シルキーな余韻」と絶賛された。フルーティで華やかな香りに加え、雑味のない透き通った口当たりが印象的で、飲み手の五感を包み込むような体験を提供してくれる。

雄町を8%まで磨いた”狂気と情熱”


使用された酒米「雄町」は、酒米の中でも特に扱いが難しいとされる品種である。ふくよかな旨味と柔らかな余韻が魅力だが、粒が大きく割れやすいため、40%以下の高精白はほとんど前例がない。だが、萩中智氏という情熱の米農家がこの壁を超えた。

萩中氏は、1坪に60〜70株を植えるところを、あえて30株に減らし、株間を広く取ることで健全な稲を育てた。稲は人の身長ほどに育ち、倒れない強靭な根を持つ。彼は「私は米ではなく、土を作っている」と語る。米を育てるというより、生命を育むような視点で取り組まれた栽培は、酒米に新たな可能性をもたらした。

雄町とは?


日本最古の酒米として知られる雄町は、1859年に岡山で発見されたルーツを持つ。心白が大きく、味に厚みがあり、芳醇な香味を生み出すのが特徴。だが柔らかく割れやすいため、高精白には向かないとされてきた。今回の挑戦は、その限界を越えた希少な成功例と言える。

富美菊酒造の”四季醸造”と徹底した造り


羽根屋を手がける富美菊酒造は、1916年創業の老舗ながら、年間を通して仕込みを行う”四季醸造”というスタイルを採っている。通常の蔵は冬から春にかけて仕込むのが主流だが、同蔵では四季折々で仕込むことで、熟練の技をさらに研ぎ澄まし、多様な表現に挑戦している。

また、同蔵では鑑評会用の大吟醸などでのみ用いられる「限定吸水」「箱麹・蓋麹」といった手間のかかる手法を、一般の特定名称酒にも採用している。これは「手間をかけた分だけ、味わいに深みが宿る」という信念の表れでもある。

限定吸水・箱麹とは?


限定吸水とは、吸水率を秒単位で制御し、理想的な米の状態を作り出す技法。一方、箱麹・蓋麹は少量ずつ麹を育てる方法で、麹菌の働きをコントロールしながら香りと味わいの精度を高める。どちらも極めて手間がかかるが、その分だけ品質は格段に向上する。

“生酒の壁”を打ち破った液体凍結技術「凍眠」


生酒はフレッシュな風味が命だが、火入れを行わないがゆえに品質劣化が早く、長距離輸送には不向きとされてきた。だがこの常識を打ち破ったのが、株式会社テクニカンが開発した液体凍結技術「凍眠」である。

-30℃の液体で瓶ごと急速冷却することで、香味を損なうことなく冷凍保存が可能に。解凍すれば、まるで搾りたてのような風味がグラスに蘇る。まさに”冬眠から覚めた酒”として、生酒の世界に革命をもたらした。

羽根屋 DIAMOND 雄町8% 商品情報一覧


– 商品名:羽根屋 DIAMOND 雄町 8% 無濾過生原酒
– 内容量:500ml
– 価格:28,600円(税込)
– 使用米:富山県産 雄町
– 精米歩合:8%
– 製造元:富美菊酒造(富山県富山市)
– 販売元:TOMIN SAKE COMPANY(富山県高岡市)
– 販売場所:帝国ホテルオンラインモール「ANoTHER IMPERIAL HOTEL」限定
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新時代の日本酒に宿る”サムライ精神”

杜氏・羽根敬喜氏と、米農家・萩中智氏。二人の共鳴と情熱がこの一本に結実した。タンクの発酵を夜通し確認する羽根氏と、深夜でも田んぼに向かう萩中氏。二人の姿は、まさに令和の”サムライ”であり、その魂がグラス一杯に込められている。

日本酒はここまで来た

「羽根屋 DIAMOND 雄町8%」は、ただの高級酒ではない。伝統・革新・情熱・技術が完璧なバランスで融合した、現代日本酒の頂点だ。もし”本物の生酒”を知りたいなら、まずこの酒に触れてほしい。それが日本酒の未来を知る、最良の一歩となるだろう。

この記事を書いた人

J.S.A Wine Expert / Sake Diploma。酒の香りにとことん弱い。都市とローカルを往復しながら、その土地の一杯に耳をすませている。これまでに開催したワイン会・日本酒会では、のべ5000人以上に酒を注いできた。抹茶の世界にも、静かに足を踏み入れはじめたところ。飲んだ先に広がる世界を求めて、今日も一杯、のち一文。

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